「この魚、持ち帰っていいサイズかな?」
釣り人なら誰でも、魚のサイズで迷った経験があるはずです。
日本では多くの魚に「15cm以下は逃がす」という下限の体長制限がありますが、海外ではさらに一歩進んだ「スロットリミット」というルールが広く使われています。
この記事では、スロットリミットの考え方と、釣り人が自分で持ち帰るサイズを決めるコツを紹介します。
この記事でわかること
スロットリミットの意味としくみ
日本の体長制限との違い
スロットリミットのメリット・デメリット
自分でキープサイズを決める方法
スロットリミットとは「持ち帰ってよいサイズの幅」
スロットリミット(Slot Limit)とは、持ち帰ってよい魚のサイズに「下限」と「上限」の両方を決めるルールです。
| サイズ | 扱い |
|---|---|
| 下限より小さい魚 | 逃がす(まだ産卵していない若い魚) |
| 下限〜上限の魚 | 持ち帰ってよい |
| 上限より大きい魚 | 逃がす(たくさん卵を産む親魚) |
「スロット(slot)」は「すき間・溝」という意味で、持ち帰ってよいサイズが一定の幅に限られていることを表しています。

海外の例
アメリカなどでは、多くの州で魚種ごとにスロットリミットが設けられています。
たとえば米国フロリダ州では、釣り人に人気のレッドドラム(レッドフィッシュ)を持ち帰れるのは、全長18〜27インチ(約46〜69cm)の魚だけです。
持ち帰れるのは1人1日1尾までで、インディアンリバー・ラグーンではキャッチアンドリリースだけが認められています(フロリダ州魚類野生生物保護委員会、2026年10月時点)。
※海外のルールは変更されることがあります。具体的な数値は各州の公式情報を確認してください。
日本の体長制限との違い
日本では、都道府県の漁業調整規則や漁協のルールで、魚種ごとに「全長◯cm以下は採捕禁止」と決められていることが多いです。
たとえば新潟県では、全長15cm以下のイワナ・ヤマメは採捕禁止です(新潟県)。
山梨県では、ウナギは24cm以下、コイは17cm以下、マス類は15cm以下が採捕禁止です(山梨県)。
これは下限だけを決めたルールです。
| 魚のサイズ | 日本の一般的な体長制限 | スロットリミット |
|---|---|---|
| 小さい魚 | 逃がす | 逃がす |
| 中くらいの魚 | 持ち帰りOK | 持ち帰りOK |
| 大きい魚 | 持ち帰りOK | 逃がす |
下限だけのルールだと、大きな魚ほど「持ち帰りたい魚」になってしまうという問題があります。
しかし、大きな魚こそ次の世代をたくさん産む大切な親魚です。
【大きなメスを逃がすと魚が増える?「BOFFFF」の考え方をやさしく解説】
スロットリミットの3つのメリット
2015年に発表された研究では、釣りに人気のある複数の魚種をもとに、「下限だけの制限」と「スロットリミット」をコンピューター演算で比べました(Gwinnほか 2015)。
スロットリミットの方が、持ち帰れる魚の数も、大物が釣れる数も多くなりました。
それでいて、卵を産む親魚も守られ、いろいろな年齢の魚がそろった集団が保たれました。
論文は、下限だけの制限が広く使われている現状を見直すべきだと結論しています。
1. 一度も産卵していない若い魚を守れる
下限より小さい魚を逃がすことで、少なくとも1回は産卵できるまで育つチャンスを与えられます。
2. 卵をたくさん産む大型魚を守れる
上限より大きい魚を逃がすことで、たくさん・質の良い卵を産む親魚が残り、資源が増えやすくなります。
タイセイヨウダラの研究事例ですが、30kgのメス1尾は、2kgのメス28尾分より多くの卵を産むことがわかっています(Barnecheほか 2018)
3. 「大物が釣れる釣り場」が維持される
大型魚が持ち帰られないので、釣り場に大物が残り続けます。
釣り人にとっては、大物とのファイトを楽しめる機会が増えるというメリットもあります。
スロットリミットは「持ち帰る量」より「持ち帰る数」や「大物との出会い」を大事にする釣り人に向いたルールです。
デカい魚を逃がす意味とは!マゴチは40cm程度の個体をキャッチするべき理由
スロットリミットのデメリット・注意点
もちろん、スロットリミットにも課題はあります。
- リリース後の生存率が大切:逃がした魚が死んでしまっては意味がありません。正しいリリースの技術とセットで考える必要があります。
- 深場の魚には向かないことがある:水深の深い場所から釣り上げた魚は、水圧の変化で浮き袋がふくらむなどして、リリースしても生き残りにくい場合があります。
- 魚種によって適したサイズが違う:成熟するサイズや寿命は魚種ごとに異なるため、一律には決められません。
深場の魚はリリース注意
水圧の変化で浮き袋がふくらむなどの症状は「減圧障害(バロトラウマ)」と呼ばれます。
体が浮いてしまい、自分で潜れなくなります。
米国では、重りの付いた道具で魚を釣れた深さまで戻す「ディセンディングデバイス」が使われています。
メバルの仲間の調査では、この道具で水深32〜92mに戻した場合、魚種によって約90%が生き残りました。
ただし、約50%にとどまった魚種もありました(NOAA)。
深場の魚はリリースにこの手間をかけない場合、死んでしまうことを前提とした資源管理が必要です。
自分で「マイ・スロットリミット」を決めよう
日本ではスロットリミットが法律で決められている魚はまだ多くありません。
しかし、釣り人が自主的にスロットリミットを取り入れることは今日からできます。
ステップ1:地域のルールを確認する
まずは、釣りをする地域の漁業調整規則や漁協のルールで決められた体長制限を確認しましょう。
これがあなたのスロットの「下限」の最低ラインになります。
ステップ2:その魚が成熟するサイズを調べる
魚が初めて産卵するサイズ(成熟サイズ)は、図鑑や水産試験場などの資料で調べられます。
成熟サイズより少し大きいくらいを下限にすると、より資源にやさしい釣りになります。
ステップ3:上限を決める
「この魚種で、この釣り場ではめったに出ないサイズ」を上限の目安にしましょう。
たとえば、いつも25cm前後が多い釣り場で40cmが釣れたら、それは逃がしたい親魚です。
ステップ4:持ち帰る数も決める
サイズだけでなく、1回の釣行で持ち帰る数も決めておくと、さらに効果的です。
| マイルールの例(あくまで一例) | 内容 |
|---|---|
| 下限 | 地域ルールの最小サイズ+数cm |
| 上限 | その釣り場の「大物」サイズ |
| 持ち帰り数 | 家族で食べきれる数まで。お裾分けはしない |
マゴチのマイ・スロットリミット
| 項目 | 決め方 | 例 |
|---|---|---|
| 下限 | 1〜2歳の若い魚は逃がす | 33cm以下はリリース |
| 上限 | 大きなメスは逃がす | 43cmを超えたらリリース |
| 持ち帰る数 | 必要な分だけ | 1回の釣行で3尾まで |
マゴチは、全長48cm以上の個体がすべてメスだったという調査があります(濱田・徳田)。
有明海の調査では、メスが50cmを超えるのは6歳前後でした(森川ほか 2002)。
イワナのマイ・スロットリミット
| 項目 | 決め方 | 例 |
|---|---|---|
| 下限 | 1〜2歳の若い魚は逃がす | 20cm以下はリリース |
| 上限 | 大きなメスは逃がす | 30cmを超えたらリリース |
| 持ち帰る数 | 必要な分だけ | 1回の釣行で5尾まで |
新潟県の規則では、全長15cm以下のイワナは採捕禁止です。
長野県の調査では、持ち帰れる大きさを全長20cmに引き上げると産卵数が増えると考察されています(河野ほか)。
そこで、下限を「20cm」にするのが一つの目安になります。上限は、その川でめったに釣れない大きさを選びましょう。
この数字は当ブログ筆者の自主ルールの例です。
スロットリミットの実践に必要な道具
正確にサイズを測り、素早くリリースするために、次の道具があると便利です。
- 計測用メジャー・計測マット:魚を寝かせて素早く全長を測れる
- フィッシュグリップ:魚体に触れずに持てる
- ラバーネット:網目がやわらかく、魚のウロコやヒレを傷つけにくい
よくある質問
Q. 「全長」ってどこからどこまで?
A. 一般的に、全長は口の先端から尾びれの先端までの長さです。
体長制限の測り方は規則によって定義が異なる場合もあるので、地域の規則で確認しましょう。
Q. 規則より厳しいマイルールを作る意味はある?
A. あります。規則は「最低限守るべきライン」です。
渓流のイワナの調査では、釣った魚をすべて持ち帰ると、13回の釣りで生息尾数の35%がいなくなると推定されました(山本ほか 2001)。
1人1人の持ち帰りが積み重なると、釣り場の魚は大きく変わります。
釣り人一人ひとりが少しずつ厳しめのマイルールを持つことで、釣り場の魚は確実に増える助けになります。
Q. 日本にもスロットリミットはありますか?
今回確認した新潟県と山梨県の漁業調整規則は、どちらも下限だけでした。
ただし、漁協や釣り場が独自に上限を決めている場合もあり得ます。釣りに行く前に、その川や海のルールを確かめてください。
JGFAよりマダイは60cm以上から、クロダイは40cm以上から、スズキは60cm以上からを逃がす再放流規定サイズがあります。
まとめ|持ち帰るのは「中くらい」がちょうどいい
- スロットリミットは、持ち帰ってよいサイズに下限と上限を決めるルール
- 小さい若魚と、たくさん卵を産む大型魚の両方を守れる
- 日本の体長制限は下限のみのことが多い
- 地域ルール+成熟サイズ+上限+持ち帰り数で「マイ・スロットリミット」を決めよう
持ち帰るのは中くらいの魚、大物は写真に残してリリース。そんな釣り人が増えれば、釣り場はもっと豊かになっていくはずです。
参考文献
- Gwinn, D. C., Allen, M. S., Johnston, F. D., Brown, P., Todd, C. R. & Arlinghaus, R.(2015)Rethinking length-based fisheries regulations: the value of protecting old and large fish with harvest slots. Fish and Fisheries 16(2): 259–281
- Ahrens, R. N. M., Allen, M. S., Walters, C. & Arlinghaus, R.(2019)Saving large fish through harvest slots outperforms the classical minimum-length limit when the aim is to achieve multiple harvest and catch-related fisheries objectives. bioRxiv(査読前論文)
- Florida Fish and Wildlife Conservation Commission「Red Drum」(閲覧日:2026年10月20日)
- NOAA Fisheries「Rockfish Barotrauma and Recompression」
- Barneche, D. R. ほか(2018)Fish reproductive-energy output increases disproportionately with body size. Science 360: 642–645
- 新潟県「内水面(河川・湖沼)における特別採捕許可申請について」
- 山梨県「山梨県漁業調整規則について」
- 濱田豊市・徳田眞孝「マゴチの雌雄の出現と成長(予報)」
- 森川 晃ほか(2002)「有明海産コチ属2種の年齢と成長」水産増殖 50(3)
- 河野成実ほか「長野県内河川におけるイワナの生息密度、体長組成と産卵数」
- 山本 聡ほか(2001)「野生イワナの毛鉤釣りによる Catch-and-Release 後の CPUE と生息尾数の変化」水産増殖 49(4)


