釣った魚を逃がす「キャッチアンドリリース」。でも、こんな疑問を持ったことはありませんか?
「リリースした魚って、本当にそのあと生きているの?」
「針に掛かった魚はどうせ弱って死ぬ。だったら持ち帰って食べた方がいい」。釣り場で、こんな声を聞いたことはありませんか。
結論から言うと、リリースの仕方しだいで、魚の生存率は大きく変わります。

実際には、正しくリリースされた魚の多くは生き残ります。長野県の沢で野生のイワナを毛鉤で釣っては放す調査を半年続けた結果、リリースによる死亡率は推定2.0%でした。つまり約98%が生き残った計算です(山本ほか 2001)。
北海道の4河川で行われた別の調査では、リリースしたイワナと、釣られていないイワナを約50日後に比べました。生き残りの目安となる再捕率は77.9%と74.2%で、成長にも差はありませんでした(Tsuboi ほか 2002)。
ただし、この数字は「正しく扱えば」の話です。世界の274件の調査をまとめた研究では、リリース後の死亡率は0〜95%と大きくばらついていました(Bartholomew & Bohnsack 2005)。針の掛かり方、エサかルアーか、水温、扱い方で、結果は大きく変わります。
この記事では、リリースした魚が死んでしまう原因と、生存率を上げる5つのコツを、研究データとあわせて解説します。
この記事でわかること
- リリースした魚が死んでしまう主な原因
- 生存率を上げる5つのコツ
- 「素手で触るとやけどする」は本当か
- リリースに役立つ道具
リリースした魚が死んでしまう主な原因
リリース後の魚の生存率については、世界中で多くの研究が行われています。
その結果、次のような要因が生存率を大きく下げることがわかっています。
| 原因 | 魚に起きること |
|---|---|
| 針を深く飲まれる | エラや内臓が傷つき、出血する |
| 空気中に長く出す | エラがうまく働かず、酸欠状態になる |
| 長時間のファイト | 体内に疲労物質がたまり、回復できなくなる |
| 体表を傷つける | ウロコやヌメリがはがれ、病気にかかりやすくなる |
| 水圧の急な変化 | 深場の魚の浮き袋がふくらみ、潜れなくなる |
| 高い水温 | 水中の酸素が少なく、回復しにくい |
逆に言えば、これらを減らせば、リリースした魚の生存率は大きく上がるということです。
リリースの「よくある5つの誤解」と研究データ
リリースにまつわるよくある5つの誤解
釣り場では、経験から生まれた「常識」が語られています。その中には、研究で否定されているものもあります。
誤解1:「針に掛かった魚はどうせ死ぬから、持ち帰っても同じ」
正しく扱えば、ほとんどの魚は生き残ります。
毛鉤で釣った野生イワナの調査では、死亡率は推定2.0%でした(山本ほか 2001)。
エサ釣りの調査でも、リリースしたイワナの約50日後の再捕率は、釣られていない魚と差がありませんでした(Tsuboi ほか 2002)。
「どうせ死ぬ」と思うと、扱いも雑になります。その雑な扱いが、実際に魚を死なせる原因になります。
誤解2:「針を飲まれたら、外してあげるのが魚のため」
飲まれた針は、無理に外さず糸を切る方が生き残ります。
北海道のエサ釣りの調査では、針を外して放したときの死亡率は6.7%で、死んだ魚はすべて針を飲んでいた個体でした。
糸を切って放す方法に変えた調査では、735回の釣獲で死んだのは1尾(0.14%)でした(坪井 博士論文要旨)。
糸を切って放したイワナ77尾のうち93.5%が、後の調査で再び捕まりました。ふつうに放した魚(92.5%)とほぼ同じです。
体内に残った針は、推定で約22日後に腐食が始まり、約53日後に体外へ出るとされています。
誤解3:「写真を撮る数十秒くらいは平気」
空気中に出す時間が長いほど、死亡率は上がります。
ニジマスを疲れるまで泳がせた実験では、空気に出さない場合の死亡率は12%でした。
30秒出すと38%、60秒出すと72%に上がりました(Ferguson & Tufts 1992、Schreer ほか 2005での紹介)。
この実験は実験室でのもので、野外より高い数字が出ている可能性があります。
水温10℃でカワマスを使った別の実験では、120秒空気に出しても死ぬ魚はいませんでした。
それでも、水温が高いときや、長いファイトの後は、数十秒が命取りになりえます。撮影は水中か、水面すれすれで数秒にしましょう。
誤解4:「エサでもルアーでも、魚へのダメージは同じ」
エサ釣りは、針を飲まれやすい分だけ死亡率が高くなります。
世界の調査をまとめた研究では、死亡率を上げる最大の要因は「針が掛かった場所」でした。
天然のエサも、ルアーより死亡率を上げる要因とされています(Bartholomew & Bohnsack 2005)。
トラウトのエサ釣りでは、平均死亡率31.4%という報告もあります(Taylor & White 1992、坪井の博士論文での引用)。
エサ釣りでリリースを前提にするなら、早合わせで飲まれる前に掛けることが大切です。
誤解5:「リリースしても、同じ魚は警戒して二度と釣れない」
リリースした魚は、また釣れます。長野県の調査では、13回釣っても釣果(1回あたりの釣獲数)は減りませんでした。
調査の終わりには、釣れた魚の57〜70%が一度リリースした魚でした(山本ほか 2001)。
北海道の調査でも、1尾が11回の釣りで平均2.15回釣られていました。
長野県の論文は、釣った魚を全部持ち帰っていたら、13回の釣りで生息尾数の35%がいなくなると推定しています。
1尾をリリースすれば、自分やほかの釣り人が、またその1尾に出会えます。
生存率を上げる5つのコツ
魚種によって差こそありますが、生存率を上げるコツを確認していきましょう。
コツ1:バーブレスフックで素早く針を外す
バーブレスフック(返しのない針)は、針外しにかかる時間を短くし、魚の口へのダメージも小さくできます。
手持ちの針でも、ペンチで返しをつぶせばバーブレスにできます。
「バラシが増えるのでは?」と心配する人もいますが、ラインのテンションを保っていれば、バラシは思ったほど増えないという声も多くあります。
バーブレスフックを確認する
世界の調査をまとめた研究では、ファイトや針外しの時間が長いほど、死亡率が上がっていました(Bartholomew & Bohnsack 2005)。
バーブレスフックの一番の利点は、この「水から出している時間」を短くできることです。
なお、同じ研究では、カエシの有無そのものによる死亡率の差はわずかでした。「バーブレスなら雑に扱っても大丈夫」ではなく、「早く外すための道具」と考えましょう。
コツ2:針を飲まれたら無理に外さない
針を喉の奥まで飲まれてしまったときは、無理に外そうとせず、ラインをできるだけ口の近くで切って逃がしましょう。
無理に引き抜くと、エラや内臓を傷つけて致命傷になることがあります。
口の奥にかかった針は、フォーセップ(針外し用の鉗子)を使うと、素早く安全に外せます。
針を素早く外せるフォーセップを確認する針を飲んだイワナの糸を切って放す調査では、放した魚の93.5%がその後も生きて再捕されました。
調べた針の約3分の1(32.9%)は、すでに体外へ出ていました(坪井 博士論文要旨)。
詳しい数字は「よくある5つの誤解」の誤解2で紹介しています。
コツ3:空気に出す時間を最小限にする
魚にとって、空気中は人間にとっての水中と同じです。できるだけ水の中で、もしくは水面ぎりぎりで針を外しましょう。
写真を撮るときも、
- カメラの準備をしてから魚を持ち上げる
- 撮影は数秒で済ませる
- 終わったらすぐ水に戻す
を意識するだけで、魚へのダメージは大きく減ります。
活かし水くみを見る実験では、空気に出す時間が30秒で死亡率38%、60秒で72%まで上がった例があります(誤解3を参照)。
写真は「水から出すのは数秒だけ」と決めておくと迷いません。
コツ4:ラバーネットと濡れた手で、体表を守る
魚の体表はヌメリ(粘液)で守られています。
ヌメリは、細菌や寄生虫から体を守るバリアのような役割を持っています。
- ラバーネット:網目がやわらかいゴム製で、ウロコやヒレを傷つけにくい
- 濡れた手で触る:乾いた手や軍手で強く握ると、ヌメリがはがれやすい
- 地面に置かない:砂利やコンクリートの上で暴れさせると体表が傷つく
コツ5:魚が自分で泳ぎ出すまで支える
リリースするときは、魚を高い場所から投げ入れたりせず、水中で魚体を支えて、自分の力で泳ぎ出すのを待ちましょう。
川であれば、魚の頭を上流(流れが来る方向)に向けて支えると、エラに自然と水が通り、回復しやすくなります。
魚がしっかりヒレを動かし、手から離れようとしたら、そっと手を放します。

ファイトが長いほど、魚は疲れて死にやすくなります(Bartholomew & Bohnsack 2005)。
弱った魚ほど、泳ぎ出すまでしっかり支えてあげましょう。
そもそも魚を疲れさせすぎない、強めのタックルを選ぶことも大切です。
「素手で触ると魚がやけどする」は本当?
よく「人間の体温は魚にとって高すぎるので、素手で触るとやけどする」と言われます。
厳密に言うと、人の手の温度で魚の体が「やけど」するという科学的な根拠ははっきりしていません。
ただし、素手、とくに乾いた手で魚を強く握ると、
- ヌメリがはがれる
- ウロコがはがれる
- 内臓が圧迫される
といったダメージを与えることは確かです。
結果として、リリース後に皮膚の病気やカビ(水カビ病など)が発生しやすくなるため、「やけど」と表現されるようになったと考えられます。
つまり、「素手で触らないほうがよい」という結論自体は正しいと言えます。触るなら手を水で濡らしてから、短時間でが基本です。
状況別:リリースで特に気をつけたいケース
水温が高い夏
世界の調査をまとめた研究でも、水温が高いほどリリース後の死亡率が上がることが示されています(Bartholomew & Bohnsack 2005)。
空気に出しても死ななかったカワマスの実験は、水温10℃での結果です。夏には同じ扱いでも結果が変わると考えましょう。
水温が高いと水中の酸素が少なくなり、魚は疲れから回復しにくくなります。
夏場はファイトを短く、リリースは素早くを特に意識しましょう。
深場から釣り上げた魚
研究で、釣り上げた水深も死亡率を上げる要因とされています。
渓流のイワナで得られた「死亡率2%」は、深場の魚には当てはまりません。
深場の魚は、急に引き上げられると水圧が下がって浮き袋がふくらみ、自力で潜れなくなることがあります(減圧症のような状態)。
海外では、魚を深場まで沈めてから放すディセンディングデバイスという道具も使われています。
深場の釣りでは、そもそもリリースを前提にしない数の管理も大切です。
大型魚
大型魚は自重が重いため、エラや口だけを持って縦に吊り下げると、あごや内臓を痛めることがあります。
持ち上げるときは、お腹の下にも手を添えて水平に支えましょう。
フィッシュグリップを確認する長野県の調査では、リリースした魚はそれ以外の魚より大きく、秋に捕まった成熟した魚180尾のうち59%がリリースした魚でした(山本ほか 2001)。
研究データ早見表
| 研究 | 対象・釣り方 | わかったこと |
|---|---|---|
| 山本ほか 2001(長野県) | 野生イワナ、毛鉤 | 死亡率は推定2.0%。13回釣っても釣果は減らず、持ち帰ると生息尾数の35%が減ると推定 |
| Tsuboi ほか 2002(北海道) | 野生イワナ、エサ | 針を外して放したときの死亡率6.7%。約50日後の再捕率は釣られていない魚と差なし |
| 坪井 博士論文(北海道) | 野生イワナ、エサ、糸切り | 糸を切って放すと死亡率は0.14%。飲んだ魚の93.5%が再捕。針は約53日で体外へ |
| Ferguson & Tufts 1992(Schreer ほか 2005で紹介) | ニジマス、実験室 | 空気に出す時間が0秒で死亡率12%、30秒で38%、60秒で72% |
| Bartholomew & Bohnsack 2005 | 274件の調査のまとめ | 死亡率は平均18%、中央値11%。針の掛かり場所、エサ、水深、高水温、長いファイトで死亡率が上がる |
※「数字は魚種や釣り方、調査の条件によって変わります。すべての釣りに当てはまるわけではありません。」
まとめ|正しく逃がせば、魚はまた釣り場に帰ってくる
リリースの生存率を上げる5つのコツをおさらいしましょう。
- バーブレスフックで素早く針を外す
- 針を飲まれたら無理に外さず、ラインを切る
- 空気に出す時間を最小限にする
- ラバーネットと濡れた手で体表を守る
- 魚が自分で泳ぎ出すまで支える
リリースは「逃がして終わり」ではなく、「生きて帰ってもらうこと」がゴールです。
ちょっとした工夫で、あなたが逃がした魚が、また誰かの竿を曲げてくれるかもしれません。
参考文献
- 山本 聡・小原昌和・河野成実・川之辺素一・茂木昌行(2001)野生イワナの毛鉤釣りによる Catch-and-Release 後の CPUE と生息尾数の変化.水産増殖 49(4): 425–429
- Tsuboi, J., Morita, K. & Matsuishi, T.(2002)Effects of catch-and-release angling on growth, survival and catchability of white-spotted charr Salvelinus leucomaenis in wild streams.日本水産学会誌 68(2): 180–185
- 坪井潤一(2009)河川性サケ科魚類におけるキャッチアンドリリースの資源維持効果に関する研究.東京大学 博士論文(要旨は山梨県水産技術センターが公開、本文PDF)
- Bartholomew, A. & Bohnsack, J. A.(2005)A review of catch-and-release angling mortality with implications for no-take reserves.Reviews in Fish Biology and Fisheries 15: 129–154
- Schreer, J. F., Resch, D. M., Gately, M. L. & Cooke, S. J.(2005)Swimming performance of brook trout after simulated catch-and-release angling: looking for air exposure thresholds.North American Journal of Fisheries Management 25: 1513–1517
- Ferguson, R. A. & Tufts, B. L.(1992)Physiological effects of brief air exposure in exhaustively exercised rainbow trout. Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences 49: 1157–1162(数値は5の論文での紹介から引用)

