はじめに:その魚、もう産卵できるサイズですか?
釣り上げた魚が「すでに卵を産めるサイズか、これから育つ子どもか」は、リリースするか持ち帰るかを決めるときの大事な目安になります。
この記事は、水産試験場・水産研究・教育機構・水産庁・各県の事業報告などの公開資料から、魚が初めて産卵するサイズ(成熟サイズ)を調べてまとめたものです。

渓流魚、堤防・オフショアの魚、サーフ・磯の魚の3つに分けて紹介します。
念のため釣具メーカーの解説ページは使わず、水産関係の資料に数値が書かれていた魚だけを載せました。
資料で値を確認できなかった魚は、最後にまとめています。
成熟サイズの読み方:同じ「成熟」でも中身が違う
資料によって数値の性格が違うので、表では次のように区別しています。
- 50%成熟サイズ:そのサイズの魚の半数が成熟しているサイズ。いちばん標準的な指標です。
- 最小成熟(生物学的最小形):成熟が確認された最も小さい個体のサイズ。50%成熟より小さめに出ます。
- 年齢+成長からの目安:「何歳で成熟」と「何歳で何cm」を突き合わせた推定です。実測の50%成熟サイズではありません。
- 年齢のみ:成熟年齢はわかるが、サイズの数値が資料になかったもの。
この他にも注意点が2つあります。一つ目は測定部位です。
全長・尾叉長・体長・標準体長・被鱗体長は資料ごとに違うので、釣り上げた魚の全長をそのまま比べるとずれます。
二つ目は地域差です。水温や資源の状態で成熟サイズは大きく変わり、たとえばヒラメの雌は京都で約47cm、瀧戸内海で約40cmと約7cmの差があります。
表の数値は「その資料の海域での値」として読んでください。
渓流魚編:15〜20cmでもすでに産卵に加わっている魚がいる
アマゴ・ヤマメ・イワナは、資料で確認された最小クラスの成熟魚が15〜20cm台です。リリースの目安としては、20cm前後の魚にも抱卵個体が含まれることを覚えておくとよさそうです。
| 魚種 | 成熟サイズ | 測定部位 | 年齢・補足 | 資料の海域・水系 |
|---|---|---|---|---|
| アマゴ | 雌13〜17cm以上(成熟雌の確認サイズ) | 全長 | 雌は1歳では成熟を確認できず | 滋賀県の川(犬上川など) |
| ヤマメ | 河川型は約20〜30cm、残留型の抱卵雌は約19〜23cm | 体長(北海道は尾叉長) | 河川型は孵化後2〜3年、北海道の抱卵雌は主に満、1歳 | 東京都、北海道の川 |
| サクラマス(降海型) | 遡上親魚は約60cm(1〜6kg、平均2.4kg) | 不明 | 産卵後に死んでしまうため、遡上サイズを初回産卵サイズの目安とした | 山形県 |
| アメマス | 降海型は雌32cm・雄28cm以上、河川残留型は雄10cm〜・雌16cm〜 | 尾叉長 | 残留型は雄満、1歳・雌満、2歳 | 北海道 |
| イワナ | 雄約18〜19cm以上、雌約22cm(成熟確認個体) | 尾叉長 | — | 石川県・滋賀県 |
| ニジマス | 雌約28〜38cm | 尾叉長 | 雌雄とも2〜3年目、4年目には全個体が成熟 | 北海道の湧水河川 |
| ブラウントラウト | 雌約40cm前後(全長 41.5cmで成熟卵を確認) | 全長 | 雄は2年、雌は3年が多い | 栃木県・山梨県 |
| カワマス | 11〜26cm | 尾叉長 | 年齢の記載なし(総説の引用) | 日本の外来個体群 |
| イトウ | サイズの記載なし | — | 雌5歳以上、雄3歳以上 | 北海道 |
| ウグイ | サイズの記載なし | — | 2〜4年で産卵できる親になる | 長野県 |
| オイカワ | サイズの記載なし(成長は1年7〜8cm、2年10〜11cm) | 体長 | 雌満、1年・雄満、2年(資料の記載順、千曲川の報告) | 東京都(千曲川の知見) |
| アユ | 産卵期の親魚の実測例は体長9.2〜11.6cm | 体長 | 1年魚で、秋に産卵して死ぬ | 新潟県の海川 |
| カジカ(河川型) | 約7cm | 全長 | 満、2歳以上 | 長野県など |
読むときの注意点を三つ。アマゴ・イワナ・カジカの値は「成熟が確認された最小クラス」なので、50%成熟サイズより小さめです。
サクラマスは、資料に専用の成熟サイズがなく、遡上した親魚のサイズを目安にした私の解釈です。
オイカワは雌雄の順番が一般的な認識と違う可能性があるので、原典の確認が望ましいです。
堤防・オフショア編:サビキの小物から深海魚まで
ここでは堤防と沖釣りを中心にした魚を挙げます。サーフ・磯でも釣れる魚は次の章にまとめました。
アジ・サバ・イワシは1歳前後で成熟し、カンパチ類やハマダイなどの深海魚は一気に大型になります。
| 魚種 | 成熟サイズ | 測定部位 | 年齢・補足 | 資料の海域 |
|---|---|---|---|---|
| マアジ | 約18cm(1歳で50%成熟) | 尾叉長 | 2歳で全個体が成熟 | 高知県 |
| マサバ | 約29〜33cm | 尾叉長 | 1〜3歳(資源が低いと2歳成熟が増える) | 高知県・北海道 |
| カタクチイワシ | 約10〜12cm | 被鱗体長 | 満、1歳 | 静岡県・高知県 |
| メアジ | 19〜24cm(1歳、雌の約8割が成熟) | 尾叉長 | 孵化後1年 | 沖縄島沿岸 |
| ウマズラハギ | 約16cm | 体長 | 1歳から加わる個体あり、2歳でほとんどが産卵 | 北海道以南 |
| サヨリ | 雌32cm(2歳)、雄25cm(1〜2歳) | 全長 | 生物学的最小形 | 記載なし |
| コノシロ | 129mm(大阪湾)、121.4mm(相模湾) | 被鱗体長または標準体長 | 生物学的最小形、性別の記載なし | 大阪湾・相模湾 |
| ニシン | 雌18.0cm、雄17.2cm | 体長 | 生物学的最小形 | 記載なし |
| マルソウダ | サイズの記載なし | — | 主に1歳・1.5歳が産卵 | 高知県周辺 |
| マアナゴ | 約70cm(飼育由来の値) | 記載なし | 2歳。天然の成熟魚は未採集 | 記載なし |
| マダラ | 雄46cm、雌50cm(最小形は雌雄ともに40cm) | 体長 | 3〜4歳 | 記載なし |
| アカガレイ | 雄約18cm、雌約27cm | 体長 | 雄3歳・雌5歳から産卵に加わる | 京都府(日本海) |
| ヤナギムシガレイ | 雌約15cm | 体長 | 3歳 | 京都府(日本海) |
| ヒレナガカンパチ(カンパチ類) | 約60cm(成熟開始) | 尾叉長 | — | 小笠原諸島 |
| メダイ | 60cm以上と推察 | 尾叉長 | 古い調査の引用 | 伊豆諸島海域 |
| アオダイ | 31.9cm(50%成熟) | 尾叉長 | 約8歳 | 沖縄海域 |
| ヒメダイ | 26.7cm(50%成熟) | 尾叉長 | 約3歳 | 沖縄海域 |
| オオヒメ | 34.7cm(50%成熟) | 尾叉長 | 約3歳 | 沖縄海域 |
| ハマダイ | 68.6cm(50%成熟、雌) | 尾叉長 | — | 琉球列島海域 |
マアナゴは飼育下の知見とみられ、天然魚の値ではありません。メダイは古い調査の推察値、サヨリ・コノシロ・ニシンは「生物学的最小形」なので、半数が成熟するサイズはこれより大きくなります。
サーフ・磯編:堤防とも共通の対象魚
サーフと磯で釣れる魚の多くは堤防や沖でも釣れるため、ここではこれらの釣り場で狙う魚をまとめます。比較的サイズの大きい魚が多く、「キープサイズ」の考え方と直結します。
| 魚種 | 成熟サイズ | 測定部位 | 年齢・補足 | 資料の海域 |
|---|---|---|---|---|
| シロギス | サイズの記載なし | — | 1歳から成熟個体が出現、多くは2歳で成魚。産卵期6〜9月 | 山形県沖 |
| カサゴ | 約7〜12cm(1歳) | 全長(標準体長の資料もあり) | 1歳で成熟する個体あり、雌の多くは満、3年 | 山口県・佐世保湾など |
| アイナメ | 雌23.0cm、雄20.3cm(50%成熟) | 体長 | 雌は1歳で約53%、2歳で約91%、雄は1歳で約89%。沖合の未熟個体が標本に入っておらず、過大評価の可能性 | 青森県・津軽海峽東部 |
| キジハタ | 雌35.2cm(50%成熟)、最小成熟27.0cm | 全長 | 年齢の記載なし | 山口県日本海 |
| イシダイ | オス約15cm(満、1歳)〜、メス約20cm(満、2歳)〜 | 体長 | 1つの資料のみの参考値 | 伊豆・小笠原の島しょ |
| クロダイ | サイズの記載なし | — | 雄は満、3年、雌は満、4年 | 伊勢湾 |
| スズキ | 雄約34cm、雌約40cm(年齢と成長からの推定) | 標準体長 | 雄は満、3年、雌は満、4年。別資料では最小形が雄24.5cm、雌34〜37cm | 東京湾・伊勢湾・三河湾 |
| ヒラメ | 雌約40〜47cm、雄約26〜36cm(50%成熟) | 全長 | 雌は2歳以上でほぼ成熟。瀧戸内では50%成熟年齢が雌1.8歳・雄0.8歳 | 京都府・瀧戸内海 |
| マダイ | 約29〜32cm(50%成熟) | 尾叉長 | 3歳以上(雄3歳、26%、4歳、61%、雌5歳、56%) | 青森県・茨城県 |
| ブリ | 約53cm(2歳で50%)〜67cm(3歳で100%) | 尾叉長 | 年齢別成熟率と成長からの推定 | 全国(太平洋北部の成長) |
| サワラ | サイズの記載なし | — | 1歳で50% | 瀧戸内海系群 |
| マコガレイ | サイズの記載なし | — | 3歳以上 | 青森県 |
| イシガレイ | 雌約22cm〜、雄約17cm〜 | 体長 | 雌雄とも2歳魚から産卵に加入。雌の数字は原典の表記が不鮮明 | 千葉県 |
性別の記載がある行では、ヒラメ・マダイ・スズキ・クロダイ・アイナメのように、オスよりメスの成熟が遅い(または大きなサイズで成熟する)魚が目立ちます。ヒラメ・スズキ・マダイなどの大型魚で産卵前の個体を残したいなら、オスではなくメスの成熟サイズを基準にするのが安全側の考え方です(これは資料の記述ではなく、この記事の提案です)。
資料で確認できなかった魚
有名な釣り対象でも、水産関係の公開資料から成熟サイズを読み取れなかった魚があります。
釣具メーカーの解説やブログには数字があることもありますが、念のため出典がないものは採用していません。
調べた範囲で分かったことを下にまとめます。
| 魚種 | 調べた資料で分かったこと |
|---|---|
| メバル類 | 瀧戸内海の年齢・成長の論文や各県の資料は、産仔期(雄は9〜12月に交尾、雌は1〜2月に産仔)や成長の記述のみで、成熟サイズの値なし |
| メジナ類 | 産卵期のみ(メジナは2〜6月、クロメジナは11〜12月)。和歌山県串本の年齢・成長の論文でも成熟サイズは記載なし |
| マゴチ | 有明海の産卵盛期は5月、雌の方が雄より大きい(性転換する魚)ことは分かるが、成熟サイズの数値はなし |
| ヒラマサ | 西九州沖のヒラマサの繁殖特性を調べた論文(2010年)があるが、今回は本文を開けず未確認 |
| カワムツ・ハタ類(キジハタ以外)・カワハギ・ボラなど | 水産資料で成熟サイズの数値を確認できず |
空欄になっていることは「成熟しない」ではなく「資料で確認できなかった」という意味です。
まとめ:リリースの目安に使うときの三つのポイント
- 測定部位をそろえる:表の数値が尾叉長なら尾叉長で、体長なら体長で測って比べましょう。
- 地域差を読み込む:資料の海域と自分の釣り場が違うと、成熟サイズもずれます。
- 「最小」と「50%」を区別する:最小成熟サイズは、すでに一部の魚が産卵に加わっているサイズです。
この表は、資料が見つかった魚から順に埋めたものです。見つからなかった魚は、これから資料が増えれば更新していきます。
逆に見つかっていないということは、研究で明らかにしたい内容となるのでぜひ学術関係の方は挑戦してみてください!!
出典
各魚種の資料名とURLは、別途作成したExcel「魚の成熟サイズ一覧」に記載しています。主な資料は次のとおりです。
- ヤマメ(東京都島しょ農林水産総合センター)
- 抱卵ヤマメ(水産研究・教育機構 SALMON情報 No.3)
- アメマス(道総研 魚類図鑑)
- アマゴ(滋賀県水産試験場)
- カワマス(AIRIES刊行ジャーナルの総説)
- アイナメ(青森県産業技術センター)
- キジハタ(山口県水産研究センター 研究報告第20号)
- イシダイ(東京都島しょ農林水産総合センター)
- シロギス(山形県シロギス資源回復計画、水産庁掲載)
- サヨリ・コノシロ・ニシン・マダラ・マアナゴなど(全国豊かな海づくり推進協会の調査報告、水産庁掲載)
- マルソウダ(高知県水産試験場)
- マコガレイ(青森県産業技術センター)
- イシガレイ(千葉県水産総合研究センター)
- マアジ・マサバ・カタクチイワシ(高知県水産試験場 成果報告書)
- アユ(新潟県の公開資料)
- イトウ(道総研 研究報告)
※数値は資料の記載を読み取ったものです。ブリやダイなど、重要なサイズをリリースの基準に使う前には、原典で確認してください。