釣り人にとって、大物は特別な存在です。
「せっかく釣った大物だから持ち帰りたい」と思うのは、ごく自然な気持ちでしょう。
しかし、魚の研究者の間では「大きなメスこそ逃がすべき」という考え方が広まっています。
それが「BOFFFF(ボフ)」と呼ばれる考え方です。
この記事では、BOFFFFとは何か、なぜ大きなメスを残すと魚が増えるのかを、できるだけやさしく解説します。

この記事でわかること
- BOFFFF(ビッグマザー)の意味
- 大きなメスが「体の大きさ以上に」卵を産む理由
- 大きな魚を残すことが資源を守る仕組み
- 釣り人が実践できること
BOFFFFとは「大きくて年をとった、太った多産のメスの魚」
BOFFFFは、次の英語の頭文字をとった言葉です。
Big Old Fat Fecund Female Fish(大きくて・年をとった・太った・多産の・メスの・魚)
日本では「ビッグマザー」と呼ばれることもあります。
この考え方のポイントは、大きなメスは、小さなメスとは比べものにならないほど、次の世代に大きく貢献しているということです。
大きなメスが重要な3つの理由
理由1:体の大きさ以上に卵をたくさん産む
体重が2倍になれば、卵の数も2倍——と思いがちですが、実際はそうではありません。
2018年に科学誌『Science』に発表された研究では、海水魚342種のデータが分析されました(Barnecheほか 2018)。
その結果、95%の種で、大きなメスほど体重あたりの産卵に使うエネルギーが多いことがわかりました。

たとえばタイセイヨウダラでは、30kgのメス1尾が、2kgのメス約28尾分より多くの卵を産むと推定されています。
28尾の合計体重は56kgで、大きな1尾の倍以上です。
また、全長27インチ(約69cm)のカスミアジは、12インチ(約30cm)のものの84倍の卵を産むと紹介されています(ハワイ大学 2014)。
※ハワイ大学の記事では「bluefin trevally(ハワイ名オミル)」と書かれており和名「カスミアジ」としています。
多くの海水魚で体が大きくなるほど、体重あたりの卵の量も増えていくことが示されました。
つまり、大きなメス1匹は、同じ合計体重の小さなメス数匹よりも多くの卵を産む傾向があるのです。
| 比較対象 | 合計体重 | 産む卵の数 |
|---|---|---|
| 30kgのタイセイヨウダラメス 1尾 | 30kg | 多い |
| 2kgのタイセイヨウダラメス 28尾 | 56kg | 30kgのメス1尾より少ない |
理由2:卵の「質」も良いことがある
魚種によっては、大きなメスの卵はサイズが大きく、栄養(卵黄)も豊富であることが報告されています。
栄養の多い卵から生まれた稚魚は、成長が早かったり、エサがない時期を生き延びやすかったりすると考えられています。
北米にすむメバルの仲間「ブラックロックフィッシュ」(学名 *Sebastes melanops*)の研究では、5〜17歳のメス20尾が産んだ稚魚を比べました。
いちばん年上のメスの稚魚は、いちばん若いメスの稚魚と3倍以上の速さで育ち、エサがない状態でも2倍以上長く生き延びました(Berkeleyほか 2004)。
この研究では、稚魚の育ちやすさを決めていたのは、母親の「大きさ」より「年齢」でした。
理由3:産卵の時期や場所が分散する
大きく年をとったメスは、若いメスとは違う時期や場所で産卵することがあります。
何回かに分けて産卵する魚では、年上のメスほど早く産卵を始め、長い期間産卵し、ときには別の場所で産卵します。
また、長生きのメスは、稚魚が育ちにくい悪い年を生き延び、条件が良くなった年にまた産卵できます(Hixonほか 2014)。
産卵のタイミングがばらけることで、「たまたまその年は環境が悪くて稚魚がほとんど育たなかった」というリスクを分散できるのです。
いろいろな年齢・サイズのメスがいることは、魚の集団全体を安定させる保険のような役割を果たしています。
時間経過をふまえ、若いメスは速いペースで数の回復ができますが、長生きのメスは環境中に量産できません。
大きな魚ばかり持ち帰ると何が起きるか
釣りでも漁業でも、人はどうしても大きな魚を優先して持ち帰りがちです。すると、次のようなことが起こります。
- 大きなメスが減る → 生まれる卵の量が大きく減る
- 若い魚ばかりの集団になる → 環境の変化に弱くなる
- 早く小さいうちに成熟繁殖する魚が残りやすくなる → 魚の集団全体が小型化していく可能性がある
3つ目の「小型化」については、長い年月をかけて魚の性質そのものが変わってしまう可能性があると指摘されています。
”漁業や釣りは、大きく年をとった魚から取り除いていく傾向があります。その結果、若い魚ばかりの集団になり、魚の数が年によって大きく増え減りしたり、急に減ったりしやすくなります(Hixonほか 2014引用)”
「小さい魚を逃がす」だけでは不十分?
日本の多くの地域では、「これより小さい魚は獲ってはいけない」という下限の大きさが決められています。
たとえば新潟県では、全長15cm以下のイワナ・ヤマメは採捕禁止です(新潟県)。
下限の体長制限があります。小さな魚を守るのはもちろん大切です。
しかし、BOFFFFの考え方からすると、大きな魚を守ることも同じくらい大切です。
そこで海外では、小さい魚と大きい魚の両方を逃がし、中くらいのサイズだけを持ち帰る「スロットリミット」というルールを採用している地域もあります。
Hixonほか(2014)は、大きな魚を守る方法として、中くらいの大きさの魚だけ持ち帰れる「スロットリミット」と、魚が一生を通して産卵できる「海洋保護区」を挙げています。
日本の釣り場でもBOFFFFは大切
マゴチ:60cmのメスは約8歳
マゴチは、大きい個体ほどメスです。福岡県の調査では、全長48cm以上のマゴチはすべてメスでした(濱田・徳田)。
有明海の調査では、メスが60cmに育つまでに約8年かかると推定されています(森川ほか 2002)。
60cmを超えるマゴチは、何年も生き延びてきた大きなメスで、BOFFFFにあたる個体と考えられます。
詳しくは「デカい魚を逃がす意味とは!マゴチは40cm程度の個体をキャッチするべき理由」で紹介しています。
イワナ:持ち帰れる大きさを引き上げると産卵数が増える
長野県のイワナの調査では、持ち帰れる大きさを全長15cmから20cmに引き上げると、産卵数が増えると考察しています(河野ほか)。
長野県の雑魚川では、実際に全長20cmの制限が適用されています。
「少し大きくなるまで待つ」だけでも、産卵できる魚が増え、川の魚を守ることにつながります。
詳しくは「渓流の禁漁期間はなぜある?」で紹介しています
釣り人が実践できる3つのこと
1. 大型のメスは記念撮影してリリース
大物が釣れたら、写真とサイズの記録を残して、海や川に返すという選択肢を持ちましょう。
思い出は写真と記録で十分残せます。
撮影は、魚を水から出す時間を数秒にしましょう。
空気に出す時間が長いほど、リリース後に死ぬ魚が増えることが実験でわかっています。
フィッシングメジャーを確認する2. 大型魚を弱らせずに取り込む
大型魚は自重が重いため、抜き上げや、陸の上で暴れさせることで内臓や体にダメージを受けやすくなります。
大きめのランディングネットで取り込み、なるべく水に近い状態で針を外しましょう。
ラバーランディングネットを確認する3. 持ち帰るなら「中くらい」を選ぶ
食べる分を持ち帰る場合は、ルールで決められた最小サイズを超えた、中くらいの魚を選ぶのがおすすめです。
実は、中くらいのサイズの魚のほうが身がやわらかく、料理しやすいことも多いのです。※デカすぎてまな板にのらなかったり、骨が切れないなどを経験した筆者の主観です
よくある質問
Q. オスかメスか見分けられない魚はどうすればいい?
A. 見た目でオスとメスの区別がつかない魚も多いです。
その場合は、大きな個体はメスの可能性もあるので逃がす、と考えておくとシンプルです。
また、魚によっては大きくなるとオスからメス、またはメスからオスに性転換するものもいます。
魚によっては、成長の途中で性別が変わるものもいます。
一方でマゴチのように、「大きくなるとメスに変わる」と言われていたのに、実際にはメスの方が速く育つだけだった例もあります。
どちらの場合も、大きな個体を逃がすことは資源を守ることにつながります。
Q. どのくらい大きければ「大型」なの?
A. 魚種によって違いますが、その釣り場でよく釣れるサイズより明らかに大きい個体と考えるとよいでしょう。
例えばマゴチなら50cmを超える個体は大型をしてしまった方が良いです
Q. 大きなメスの卵は、数だけでなく質も良いの?
魚種によっては良いことがあります。
北米のメバルの仲間の研究では、年上のメスが産んだ稚魚は、若いメスの稚魚の3倍以上の速さで育ちました。
ただし、すべての魚で確かめられているわけではありません。
まとめ|大物を逃がすことは、未来の大漁への投資
- BOFFFFは「大きくて年をとった、多産のメスの魚」の略
- 大きなメスは体の大きさ以上に多くの卵を産む傾向がある
- 卵の質が良かったり、産卵のタイミングが分散したりする効果もある
- 大型魚ばかり持ち帰ると、卵が減り、魚が小型化する恐れがある
- 大物は記録を残してリリース、持ち帰るなら中くらいのサイズを
大物を逃がすのは、少し勇気がいるかもしれません。でもその一匹が、何年後かにあなたの竿を曲げる魚たちを産んでくれるかもしれません。
参考文献
- Hixon, M. A., Johnson, D. W. & Sogard, S. M.(2014)BOFFFFs: on the importance of conserving old-growth age structure in fishery populations. ICES Journal of Marine Science 71(8): 2171–2185
- Barneche, D. R., Robertson, D. R., White, C. R. & Marshall, D. J.(2018)Fish reproductive-energy output increases disproportionately with body size. Science 360: 642–645
- Berkeley, S. A., Chapman, C. & Sogard, S. M.(2004)Maternal age as a determinant of larval growth and survival in a marine fish, Sebastes melanops. Ecology 85(5): 1258–1264
- ハワイ大学(2014)BOFFFFs—big, old, fat, fertile, female fish—sustain fisheries
- 濱田豊市・徳田眞孝「マゴチの雌雄の出現と成長(予報)」福岡県水産海洋技術センター 豊前海研究所
- 森川 晃・川上 弘・田北 徹(2002)「有明海産コチ属2種の年齢と成長」水産増殖 50(3): 271–277
- 河野成実ほか「長野県内河川におけるイワナの生息密度、体長組成と産卵数」長野県水産試験場
- 新潟県「内水面(河川・湖沼)における特別採捕許可申請について」

